2013年6月23日日曜日

「ぼくらの17-on!」感想

『ぼくらの17-on!』

【作】アキヤマ香 【俳句監修】佐藤文香
【出版社】双葉社、201.06.17
【掲載】「JOURすてきな主婦たち」2012.04~

【あらすじ】
なにごともやる気のない高校二年生、久保田莉央は、偶然出会った少女(錦織綾)に一目惚れ。彼女の気をひくため俳句愛好会に入ることになる。
俳句愛好会は三年の森先輩と二年生の山本春樹の二人だけ。俳句のことなどまったく知らない莉央だったが、はじめての吟行で出した句が思わぬ好評価を得たことで興味を持つ。
しかし、莉央は綾が実は山本の兄(利秋)とつきあっていることを知る。だまされたと怒る莉央だが、山本には俳句の全国大会「俳句甲子園」へ出場するため、どうしても部員5人をそろえたいという夢があった。
やがて莉央は、寄せ集めの5人とともに真剣に俳句甲子園を目指すようになる―

【感想】
当初、どちらかというと「俳句甲子園の宣伝漫画」という先入観で、悪く言えば某・通信教育講座の付録マンガのようなものを考えていたことをお詫びしたい。

最初に素直な感想として、「とてもよかった」。
理由はいろいろと後述するが、なにより、キャラクターや場面に応じて作られる俳句の力と、(自分自身の経験に照らして)「俳句が好き」な高校生のリアルさがすばらしい。

印象に残ったのは主人公・莉央が友人の杉山に俳句の魅力について語る次のセリフ。
なんてゆーか・・・ 気持ちいいんだよね 
言葉がストンって降りてきたとき パズルのピースがはまったみたいに 
「キターーーッ!!」って思う
俳句の魅力というと「自然のすばらしさ」や「日本の伝統」しか語れない人がいる。
季節感に基づいた季語や、伝えられてきた五七五の定型律は俳句にとって重要な要素には違いないが、それが、高校生にとってのリアルな魅力たりえるかどうか。
むしろ自分の「ことば」が、「俳句」という形をとって現れたときの感覚、表現できた快楽、それは音楽や小説にも通じるけれども少し違う、根源的で直接的な「俳句の魅力」だろうし、それこそがスタート地点、ではないだろうか。

本作では、句に対する読み手の反応の豊かさ、句ができたときの主人公の表情など、「表現」にまつわる喜び、感動、わくわく、が、とてもストイックに、丁寧に描かれている。
だからこそ、特に「俳句」という枠組みで見なくともおもしろい作品だと思う。



読後すぐ、佐藤文香にメールで感想を伝え、ツイッターでも発信した。
その後、ツイッター上での「ぼくらの17-on!発売の反響」が作成されたが(更新継続中)、改めてこちらでも感想を記すことにした。

私自身(もう10年も前だが)俳句甲子園に参加経験があり、現在も俳句に関わっていて、「俳句甲子園マンガ」的なものを夢想したことは何度もある。
当時は『ヒカルの碁』(1999~)が話題だったので、アイディアとしてはごく自然の流れだった。
(※文化部モノの流れとして『のだめカンタービレ』2001~、『げんしけん』2002~、『とめはねっ!』2007~、『3月のライオン』2007~、『ちはやふる』2008~、『バクマン!』2008~など。)

構想したストーリーは、現実路線のものからB級コメディ映画風、超能力バトルものに至るまでいろいろあったが、私には画力も創作力も乏しかったので夢想は夢想に終わった。
ただ、もともと俳句甲子園に出場するのは筆が立つ文系学生が多いから、密かに「俳句甲子園漫画」や「俳句甲子園小説」を企図した、あるいは執筆に及んだ経験をもつ人は少なくなかろう。
(※俳句甲子園とは直接関係がないが、青春俳句小説「恋の平行四辺形」前編後編俳句バトル漫画まとめ曾呂利亭雑記「俳句バトル」なども参照されたい)

その意味において、『ぼくらの17-on!』には、自分の夢を代わりに叶えてくれた、という気持ちがあったことは否めない。

実際のところ「やる気のない主人公」が「ひょんなことから」「寄せ集め」で「○○の全国大会を目指す」というパターンは、映画でもおなじみの黄金パターンである。
かつて夢想したころはどちらかというとジャンプ漫画の影響で「バトルもの」に偏っていたが、基本構図としては似ていたと思う。
近いところでは「恋は五・七・五!」(未見)もそうである。

さらに「俳句甲子園漫画」としては、たくまる圭『僕らは長く夢をみる ~めざせ俳句甲子園~』 (白泉社『ヤングアニマル』2003年9号 -11号・連載全3回)が先行している。(未読/参考烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」)。

これらを考え合わせると、『ぼくらの17-on!』という作品は、素材やストーリーの新奇性からは評価しにくい。むしろ知識さえあれば当然発想しうる素材を、定番のストーリーにあてはめてうまく提供した、といえそうだ。



物語において、定型、類型は、むしろ力になる場合がある。

『ぼくらの17-on!』において、第一話で主人公が俳句に出会ってから5人チームを編成し、予選大会を戦うまでわずか4話。
「俳句の素人」が集まってからお互いを理解し、一方で俳句の実力をつける過程を描くには、やや性急である。

たとえば、選手たちがディベートを練習する描写はわずか1ページ。それでたちまち実力がアップしている。
他にも「季語」「歳時記」「季語の本意」といった基礎知識はほとんどコマのすみっこで軽く触れられる程度であり、飛び交わされる専門用語について、「素人」の作中人物がどの程度理解しているのか(そして読者がどのくらい把握できるのか)、わかりにくい印象もある。

しかし、やる気のなかった素人が挫折を味わって実力をつける、という定番パターンは、実は特殊な知識を短期に身につけた主人公たちを理解するために効果的に働いている。

定番だからこそ、描かれていない背景まで補完して想像可能なのだ。

それに、囲碁のルールが理解できなくても『ヒカルの碁』は読めるし、音楽知識が0でも『のだめ』はおもしろいのである。
それは人物造型の魅力だったり、描かれていない試合や演奏の細部を想像させる、漫画のチカラ、であろう。

ちなみに本作に描かれるような、5月のエントリーにあわせてメンバーを集め試合直前の合宿で調整・・・というのは、常連校なら知らず初出場校にはよくある話である。
自分の経験に照らしていえば、高校生の吸収力というのは相当なもので、選手たちは数週間の特訓でかなりのレベルに到達できる。本作の内容は、決して非現実的ではない。

本作のストーリーが主眼として描くのは俳句知識の解説ではなく、部員たちの人間関係、葛藤など。そうした日常生活から立ち上がってくる一句の存在感について、本作の描写は実に丁寧である。
句自体の力もあるが、俳句にまつわる専門知識をいったん置いて、句そのものと、一句をめぐる人々の反応を描くことで「俳句の魅力」を描くことに成功している、といえる。
特に、もと陸上部の杉山をめぐって作られた森先輩や主人公の作品は、キャラクターにも場面にもうまくはまっていて、とてもよかった。

以上、やや類型的なストーリーや人物造型の「黄金パターン」は気になるものの、本作は類型をうまく使って、俳句の魅力、俳句にはまっていく高校生のリアルな心情を描くことに成功した漫画であると思う。



掲載誌『JOUR すてきな主婦たち』についてははじめて知ったのだが、「1985年4月8日 - 『Jour(ジュール)』創刊号発売」されたということで、結構な老舗である。
主婦や既婚女性向けの作品が豊富」な誌面のなかで本作がどのような位置づけにあるのか、私には想像しかできないが、どちらかというと、読者層は顧問の姫川先生あたりに感情移入して「生徒」たちの奮闘を見ているのかも知れない。

そうであれば、むしろ「俳句の知識」が必要となってくるのは試合観戦を描く機会の増える今後であろう。ディベートの勝敗については、さすがに知識ぬきでは難しいだろうから、これからの描き方がどうなるか、楽しみにしたいと思う。


※ 2013.06.24、あらすじネタバレ部分とそれに関わる記述を訂正。

※ 2013.06.24
せっかくなのでレビューサイトの評判もまとめときましょうかね。
どれも俳句関係ない人たちだと思うけど、かなり好評価。だいたい同じようなこと言ってるかな。

 そのスピードで アキヤマ香『ぼくらの17-ON!』

 マンガ一巻読破 【オススメ】アキヤマ/香『ぼくらの17-on!』
  今までに購入した漫画、ゲームのメモ ぼくらの17-ON! 1巻
 


 

0 件のコメント:

コメントを投稿