2014年5月30日金曜日

俳句の鑑賞


ここ数年、某大学の講義のなかで、俳句の実作と鑑賞をとりいれている。

鑑賞の際は、自分の好きな2句を選んで、A形式的な鑑賞文、B創作的な鑑賞文、の2種類を、それぞれ400字程度にまとめるよう、指示する。
といっても、多くの学生は俳句をあまり知らないので、参考資料として私が選んだ有名句50句を提示する。
今年提示した50句は、つぎのとおり。
草の実や女子とふつうに話せない   越智友亮   
るるるるるるるるるるるふるるる春る   山本たくや
目の中を目薬まはるさくらかな   山口優夢   

晩夏のキネマ氏名をありつたけ流し 佐藤文香  

起立礼着席青葉風過ぎた   神野紗希    
コンビニのおでんが好きで星きれい  神野紗希 
闇汁のつるつる啜(すす)り麺(めん)ならず   中本真人 
じきに死ぬくらげをどりながら上陸  御中虫  
秋深し手品了(おは)りて紐は紐   高柳克弘 
人類に空爆のある雑煮(ぞうに)かな   関悦史
発明の形に朝を抱いて露(つゆ)   塩見恵介  
食べられて菌(きのこ)は消えてしまひけり  鴇田智哉 
はっきりしない人ね茄子(なす)投げるわよ 川上弘美
若さとはこんな淋(さみ)しい春なのか  住宅顕信  
ふはふはのふくろふの子の吹かれをり  小澤實 
満場ノ悪党諸君 月ガ出タ  中原幸子    
人間へ塩振るあそび桃の花   あざ蓉子   
路地裏を夜汽車と思ふ金魚かな   摂津幸彦  
桜散るあなたも河馬(かば)になりなさい  坪内稔典 
三月の甘納豆のうふふふ  坪内稔典   
じゃんけんで負けて蛍(ほたる)に生まれたの 池田澄子
青嵐(あおあらし)神社があったので拝む   池田澄子
摩天楼(まてんろう)より新緑がパセリほど 鷹羽狩行 
ごはんつぶよく噛(か)んでゐて桜咲く   桂信子  
ぽんぽんだりあ
ぱんぱんがある
るんば・たんば             高柳重信  
手をあげて此世(このよ)の友は来りけり   三橋敏雄 
梅咲いて庭中に青(あお)鮫(ざめ)が来ている 金子兜太
戦争が廊下の奥に立っていた   渡邊白泉  
バスを待ち大路の春をうたがはず  石田波郷   
雪だるま星のおしやべりぺちやくちやと 松本たかし
鮟鱇(あんこう)の骨まで凍ててぶちきらる 加藤楸邨 
噴水(ふんすい)にはらわたの無き明るさよ 橋閒石 

へろへろとワンタンすするクリスマス 秋元不死男 

万緑の中や吾子(あこ)の歯生え初(そ)むる 中村草田男 
おそるべき君らの乳房夏来る   西東三鬼  
露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す  西東三鬼  
つきぬけて天上の紺曼珠沙華(まんじゅしゃげ)   山口誓子
咳の子のなぞなぞあそびきりもなや  中村汀女 
どつかれて木魚(もくぎょ)のをどる寝(ね)釈迦(しゃか)かな 阿波野青畝   
翅(はね)わつててんたう虫の飛びいづる   高野素十 
滝落ちて群青(ぐんじょう)世界(せかい)とどろけり  水原秋桜子
ところてん煙の如(ごと)く沈み居(を)り  日野草城
咳(せき)をしても一人   尾崎放哉   
分け入っても分け入っても青い山  種田山頭火 
まさをなる空よりしだれざくらかな   富安風生 
短夜や乳ぜり啼(な)く児(こ)を須可捨焉乎(すてつちまおか)   竹下しづの女   
をりとりてはらりとおもきすすきかな  飯田蛇笏
冬(ふゆ)蜂(ばち)の死にどころなく歩きけり 村上鬼城  
去年今年(こぞことし)貫く棒の如きもの  高浜虚子 
白牡丹(はくぼたん)といふといへども紅(こう)ほのか  高浜虚子 
赤い椿白い椿と落ちにけり    河東碧梧桐 
菫(すみれ)ほどな小さき人に生まれたし   夏目漱石 
柿食へば鐘(かね)が鳴るなり法(ほう)隆寺(りゅうじ) 正岡子規 
評価の定まった著名句を中心に選んだつもりだが、当然、私の好みで偏りがある。

ホトトギス主流の作家はとりあげきれていないものが多いし、この作家はこの句でよいのか、という批判はあると思う。
やむをえないこととはいえ、どんな句を提示するのかは、悩みどころだ。学年の違いも見ていきたいと思って毎年おおきくは変えていないが、若手の俳句はちょこちょこ変えることもある。

鑑賞文の一部は公開することにしているし、これまでも何度か言及したことがあるが、学生は毎年30名前後なので、例年ごく一部しか公開できない。


今年は全体にすこし多くて40名近いが、毎年必ず選ばれる常連の人気句と、学年に1人くらいしか選ばない句、なぜかその年だけ突発的に人気上位になる句など、案外変化があっておもしろい。
熱心な学生のなかには私の選んだ50句ではなく、自力で好きな句を探し、鑑賞してくれる者もいて、
「現代の俳句はわかりにくいので好きになれませんでした」
と言って教科書で見たという芭蕉、蕪村の句で読み応えのある鑑賞を提出した学生もいた。

そんなわけでここ数年、「俳句の鑑賞」に関しては、「初心者である学生の目」にさらされる意識を、常に持つことになっている。

例年、人気があるのは、現代作家では

  じゃんけんで負けて蛍に生まれたの  池田澄子
  はっきりしない人ね茄子投げるわよ  川上弘美
  コンビニのおでんが好きで星きれい  神野紗希

といったあたり。俳句初心者の学生に人気なのも当然というラインナップか。

物故俳人では

  雪だるま星のおしやべりぺちやくちやと  松本たかし
  咳をしてもひとり   尾崎放哉
  滝落ちて群青世界とどろけり  水原秋桜子

あたりが常連で、ほぼこれだけで過半数に迫る。
松本たかしの「ゆきだるま」は俳句界的には評価が落ちるかもしれないが、学生たちが「かわいい」と言って一番にとびつく句であり、わかりやすい佳句と思う。
水原秋桜子「滝落ちて」は、人口に膾炙した名句とはいえ、例年なぜそんなに人気なのだろうと思うが、やはり印象鮮明で、イメージを喚起しやすいのだろう。「群青世界」という造語の力、色彩感覚につよく反応する学生も多い。

そのほか、毎年多いのは

  戦争が廊下の奥に立っていた  渡邊白泉
  へろへろとワンタンすするクリスマス  秋元不死男

など。
「へろへろと」は、もちろんプロレタリア精神に反応するわけではなく、クリスマスにワンタンをすする、わびしい独り者に同情したり共感したりするものが多い。(なぜか、ワンタンをインスタントだと鑑賞する学生が多いのがおもしろい)

一方で意外なのは、山口誓子、西東三鬼らを選ぶ学生がほとんどいないことだ。
過去、「君らの乳房」を選んだ男子学生がひとりいたくらいで、誓子は4年間無点。
さほど難解な句を選んだとも思えず、私などは教科書で読んで親しんでいる句なのだが、あまり響かないらしい。

(未定稿)


2014年5月18日日曜日

HAIKU sparks KANSAI ! 発足

関西現代俳句協会青年部よりお知らせがありました。


トークライブ&句会、懇親会のご案内

関西現代俳句協会青年部では協会外の一般の方にも気軽に参加して頂けるよう、「HAIKU sparks KANSAI !」(俳句スパークス関西!として様々なイベントを展開して参ります。

青年部という名称に抵抗のあったベテランの方もこれを機会にどうぞご参加ください!

日時:2014615日(日) 
 受付13時~ トークライブ1330分~ 句会1445~ 懇親会1730...

会場:新大阪丸ビル本館401号室(大阪市東淀川区東中1丁目185号)
 新大阪駅より徒歩2
http://www.japan-life.co.jp/jp/conference/


トークライブ
「曾根毅という男~芝不器男俳句新人賞受賞記念企画」
 MC:小池康生『銀化』同人、京都洛南高校俳句創作部コーチ

句会:3句出し4句選 当季雑詠(夏)
   
懇親会:参加人数が確定次第お知らせします。(会費:4,000円程度)

費用:講演会&句会1,000円(座席確保の都合上、講演会のみ句会のみの参加は出来ません。)

締切:610日(但し、締切日より前に定員に達した時は、締切前でもお断りする場合がございます。)

主催:関西現代俳句協会青年部
連絡先:office-miki@jttk.zaq.ne.jp(社会保険労務士みきもとし事務所)



昨日、「船団」初夏の集いのシンポジウムにも登壇された、青年部部長の三木基史さん。
配布レジュメの「俳句について最近考えていること」という欄で、

俳句界全体なら)俳句関連事業(出版、イベント等)を成功させるポイント 
俳句作品全体なら)俳句作品は前進しているか? その予兆を感じられるか? 
個人的雑談なら) 男の俳人は何故理屈っぽいヤツばかりなのか?
の3点をあげていた。
第3点はまさに私がそのひとりと自覚があるので「スンマセン」と言うしかないのだが、自分のことは棚に上げて理屈ヌキで楽しむタイプがもっと増えていいと思うばかりだが、第1点に関しては、三木さんは席上で次のようにも発言していた。(大意)
「30代、40代は、俳句では若手若手といわれるが、世間では中堅、それぞれ業界では責任世代。だったら俳句でもちゃんと自分で責任をとって、いろんなことをやっていくべきだと思う。個人としては作品に責任を持つし、裾野をひろげるイベントや出版についても仕掛けていきたい。下の世代にあれこれ言う前に、自分たちでなにかやっていくべきと思う」
まったく健全な考えだ。

若手シンポジウム(関西俊英・俳句ダービー)ではほかにも面白い発言がいくつかあったが、詳しくはまた後日。(と言いながら書けるかなー、最近blogサボりすぎだ・・・)

2014年5月2日金曜日

五月来る

・・・・

はっ。

し、四月、終わってましたね。。。
新年度の雑事に追われて結局俳句ラボの告知しか更新できませんでした。いかんな。

さて、五月は「船団」初夏の集いです。
5月17日(土)

於:グランドプリンスホテル京都
(地下鉄烏丸線国際会館駅下車④-2出口徒歩3分)


13:30~ 受 付 (於:1階・ロイヤルルーム)

14:00~15:30 対 談

   宮本 輝(小説家)vs.坪内稔典

16:00~17:30 パネルディスカッション 俳句ダービー

        進  行 ・塩見恵介

        パネラー・三木基史(「樫」)、杉田菜穂(「運河」)
                     藤田 俊(「船団」)、工藤 恵(「船団」)



今年のゲストは作家の宮本輝氏。

で、後半は関西若手のパネルディスカッションです。
本来は、例の「関西俳句なう」関連企画になる予定だったパネルディスカッションですが、肝心のモノができていないので、どうなるのかな。内容は塩見先生の頭の中にしかないのでよく知りません。
年齢の近い、俳句も仕事も一番輝いてる世代の方々ばかりなんで、トークはおもしろくなるんではないかな。ちなみに三木さん、工藤さんが同い年で1974年生まれ。杉田さん、藤田さんが同い年で1980年生まれ。
関西も案外若手ががんばってますよね!

しかし、うーむ、費用が 17日:13000円 とあって、これは懇親会ふくめの値段と思われるので、「船団」会員以外で懇親会行かない人が参加できるのか、ちょっとわからない・・・
例年なら来聴歓迎なんですけど、どうなんでしょ。

それにしても、最近、船団イベントの参加費が高いんですよね。。。収入不安定な身にはかなり辛いところです。まあ、船団は全てのイベントが強制参加ではないですし、行けるとこだけ行くスタイルでいいんですけれども。


そういえば、ついに出ましたね週刊俳句 ふらここ丸ごとプロデュース号

山本たくや、仮屋賢一、木田智美、山下舞子の10句作品に、「ふらここ春の蟲祭り」など、充実のラインナップですね。

 少年を腰まで沈め海開き  山本たくや
 受けらるるもの全部受け花水木  仮屋賢一

これはBL俳句?


  さくらさくら散りゆきサックスの中へ 木田智美

  さみしさは桜明るい窓の中  山下舞子

うーん、「散りゆき」「窓の中」がやや説明的な気がするけれど、さくらの冷たさがよく効いてる。


 人の夢食ひにきておる油虫  塩分

 なにもみえませんごきぶりもいません  寒天
 着ぐるみの中はごきぶりかもしれぬ  中山奈々
 ごきぶりを殺さずにをり詰らるる  羽田大佑
 物語一冊抜いて油虫  山下舞子

なぜ晩春にGの句ばかり並べたんですかね。

ちなみに、俳句ラボ吟行の定番、伊丹市昆虫館には、触れる・かわいいゴキブリがいます。(こいつ ※閲覧注意)

そのほか、鑑賞文もそれぞれ個性が出てて、読み応え充分でした。


いや、大勢の原稿をとりまとめて編集したであろう、代表・仮屋くん、そして執筆者の皆さん、お疲れさんでした。

蛇足をすこし。
今回ちょっとネタ物が少なかったかな、という気はしますね。仮屋くんの「FAQ」くらいですか。
このコーナーは、よくも悪くも仮屋カラーがたっぷり出ていて楽しく拝読しました。
しかし、「ふらここ」連中のおもしろさって、このくらいじゃないだろー、という気はする。
裁判傍聴句会とか、日本酒句会とか、句会のやり方も、悪く言えば行き当たりばったり、よく言えば実験精神。
メンバーだって、今回は、今後の主力になるだろう「新二回生」紹介だけでしたが、もっとたくさん個性的なメンバーがそろっているのを、よく知っている。

というか、私が思う「ふらここ」の魅力って、メンバーの多彩さなんですよね。
俳句甲子園の出身者で句会大好きってタイプもいれば、関係なくひとりで静かに作る人もいるし、大学から始めたからまだ様子見って人もいる。
学業やバイトに忙しくてあまり来れない人にも、ツイッター廃人俳人とか、飲み会だけ参加するヤツとか、BLネタでよだれ垂らしちゃう女子とか、永遠の女子高生とか、うん、かるく並べただけでも面白いじゃないか。

作家の評価はもちろん、俳句という「作品」の評価であるのが前提なのだけれど、俳句のつながり、俳句の楽しさって、良くも悪くも、それだけではないのだよね。
俳句が好きで、俳句の創作・鑑賞が大好きで、って人が、もちろん私は大好きですが、
それだけでなくて「楽しんでる」感ってのも、やっぱり大事なんではないかなぁ。

そういう「ミウチ」感が許されるのが、「丸ごとプロデュース」という編集スタイルではないか、という気もする。
(紙媒体の総合誌で各結社、各グループに「ミウチ」感出されたら辟易しますけどね)



以下、回想。

私が大学生のころ、関西の大学で俳句のサークルはひとつも活動していませんでした。
いや、私が知らなかっただけかも知れませんが、少なくとも他大学の学生俳人と知り合う機会はほとんどなかった。
かろうじて、龍谷大学の現代俳句講座は横のつながりを作ってくれていたみたいで、御中虫さんや中山奈々は、そんな中で交流したと聞いている。しかし、講座に参加していなかった私にはそれも無縁で、そこから波及して若手の句会ができるということもなかった。

大学二回生のとき、後輩に、宮嶋梓帆、田村理絵、田中景子という、いずれも愛媛出身の、俳句甲子園経験者が同志社・同志社女子に入学してきて、4人で「同志社俳句会」を立ち上げました。
そこから、立命館の江渡華子とか、すでに「船団」に入っていた藤田亜未など、少ない仲間を得て、細々活動が始まりました。若干ですが、その後も後輩が入ってきたりしました。

しかし、早稲田や慶應のような公認サークルでもないため、部室はないし、指導者もいない。日程はみんなの都合にあわせて流動的、会場も教室やカフェを占拠したり、貸し会議室などをそのたびに予約せねばならず、なかなか面倒。

そもそも誘うメンバーが少ないと、「5人さそって、2人来ないので、3人で句会」みたいな感じですから、盛り上がるわけがない。
結局、「同志社俳句会」の活動は、2年とすこしで休止になりました。
試験だのサークルだのバイトだの、理由をつけて句会に来てくれない人たちを、内心「不真面目な連中」と思っていた時期がありました。

そのころ、櫂未知子さんからいただいた言葉を、今でもよく覚えています。
「若い人が俳句以外にやりたい事がたくさんあるのは当然。でも、学生のころから俳句が好きになった人は、今離れても、いつかきっと帰ってくる。それでいい。」
大学生のころの私は、東京で活躍著しい神野紗希さんや、山口優夢、佐藤文香に、焦りを感じていたのだと思います
しかし、別に、俳句に打ち込むペースを、他人にあわせる必要はない。いつかまた、もっと深みにはまるかも知れないのだし。

俳句が好きなら、創作も鑑賞もがんばればいい。俳句史の勉強も、きっと役に立つ。
そういう人となら一緒に勉強会をやろうとも言えるし、きっとおいしい酒が飲める。(大事)

でも、そういう人だけである必要もない。
句会が好き、それもいいだろう。句会で集まる人が好き、それもありだろう。
多様、多彩な人が、「俳句」に関わりながら、交わっていく、そういう環境が、「俳句」には許されて言いと思う。それが「俳句」の広さではないだろうか。