2016年10月21日金曜日

Kuru-Cole 4 小鳥遊栄樹






「風に従ふ」 

小鳥遊栄樹(たかなし・えいき)

 一九九五年生まれ、沖縄出身。「若太陽」「ふらここ」「鯱の会」所属、「群青」同人。「里」副編集長。

湖までを風に従ふ石鹸玉
浅蜊飯ふたつへんじにある母音
ぐわちやぐわちやの貝の浜辺や卒業日
辱暑なる風を孕みて大漁旗
海峡を越ゆる旅路の涼しかり
はつこひのごとし夜釣の魚の眼は
あぢさゐを抱へ異国のうみの色
桟橋の大夕焼けに続きをり
故郷に制服のあるなつやすみ
海明るし指の先より飛び込めば
帰省せりテトラポッドの陽に灼くる
焼きそばのソース零せり星祭
はちぐわつの星の近さを岬にて
涼新たあつけらかんと猫逝けり
立冬の港に足の置きどころ
夜に海があまりにとほしおでんつつく
サンダルに流星蹴つたやうな傷
廃船は海を捨つるや星月夜
サンダルがまだ海を引き摺つてゐる
二百十日海辺に海の届かざり




編者コメント

小鳥遊栄樹くんは、私のもっとも若い友人のひとりである。
経歴を見れば分かるとおり、彼は縦横無尽の交遊範囲を持っており、そのいずれでも確かな才を認められている。私などが紹介するまでもなく早晩世に出る人だろう。
沖縄から単身関西へ出てきて、仕事をしているのか学生なのか、それとも俳句と酒に専心しているのか、どうもその生活の実態はよくつかめないところがあるが、それでも俳句への傾倒は大変なものだ。
句会好きの彼は句会に出れば必ず高得点をものし、いつも照れながら嬉しそうに名乗りを行う。沖縄人らしく酒豪である彼は、その後の酒宴でも穏やかに楽しげであり、泥酔する中山奈々や黒岩徳将に「クソですね」などと毒づきながら、それでも甲斐甲斐しく先輩たちを介抱する。彼の句の魅力は、良くも悪くも技巧一辺倒に収まらない瑞々しい抒情にあるが、どんなに環境が乱れても自分のペースを崩さず泰然としている彼の矜持のようなものが、その抒情を支えているのだろう。

さて、小論は小鳥遊くんがもっとも敬愛する作家であるという山口優夢氏にお願いした。
山口氏と小鳥遊くんとは、開成高校出身者を多く抱える「群青」を介して縁があるが、面識がないらしい。ダメ元でお願いしたところ多忙のなか無理を聞いてくれた山口氏(および間で労をとってくれた江渡華子氏)の友情に感謝したい。
「抒情なき世代」山口氏による抒情詩人、小鳥遊栄樹鑑賞は、間もなく公開する。お楽しみに。

0 件のコメント:

コメントを投稿